宮沢賢治の2つの謎

自作の詩や童話を「心象スケッチ」と呼んだ真の目的と、日蓮宗(国柱会)への改宗の謎を考えます。

島地大等と大乗起信論

宮沢賢治は1911(明治44)年8月、宮沢一族が中心となって花巻近郊の大沢温泉で毎年行っていた夏期講習会で、島地大等(しまじだいとう、1875~1927)による「大乗起信論」の講話を聴いています。 大沢温泉には賢治も泊まった200年前の建物が残っています 大等…

メーテルリンクと交霊術

『春と修羅』が出版された際に、賢治によって削除された「青森挽歌 三」という作品に、以下のような一節があります。最愛の妹トシが死んだ翌月、雪の降る花巻の街を歩いていた賢治は、トシの幻影を見たのです。 その藍いろの夕方の雪のけむりの中で 黒いマン…

「青森挽歌」 魂のゆくえ

宮沢賢治の「青森挽歌」は、次のような言葉で始まります。 こんなやみよののはらのなかをゆくときは 客車のまどはみんな水族館の窓になる (乾いたでんしんばしらの列が せはしく遷つてゐるらしい きしやは銀河系の玲瓏レンズ 巨きな水素のりんごのなかをか…

トシの死 もう一つのブラックボックス(2)

宮沢賢治の妹トシは、日本女子大学に入学したばかりの大正4(1915)年4月から5月にかけて、本郷に近角常観(ちかずみ じょうかん)を訪ねています。近角は清沢満之(きよざわ まんし)らとともに宗門改革運動を行った先進的な僧侶で、当時仏教界の内村鑑三と…

トシの死 もう一つのブラックボックス (1)

『心象スケッチ 春と修羅』の6番目の章「無声慟哭」は、妹トシの死を扱った5編の口語詩で構成されています。その内の3篇(「永訣の朝」「松の針」「無声慟哭」)にはトシの臨終の日、1922年11月27日の日付が記されており、最初の作品「永訣の朝」は次のよ…

「小岩井農場」 長大なつぶやき

先日、ずいぶん久しぶりに小岩井農場に行ってきました。盛岡駅でレンタカーを借り、繋温泉で一泊してから向かいました。田沢湖線の小岩井駅から少し行った道の右側に、小岩井農場の標識がありました。 賢治もこの道を歩いて農場に向かったはずです。彼の記述…

「真空溶媒」とシュルレアリスム

宮沢賢治の『春と修羅』には、彼が心象スケッチと呼んだ70編の口語詩が、8つのパートに分けておさめられています。前回ご紹介した「春と修羅」に続くパートに、「真空溶媒」というちょっとシュールな作品があります。本文248行という、「小岩井農場」「青森…

『心象スケッチ 春と修羅』

大正11(1922)年1月、宮沢賢治は2年後に『心象スケッチ 春と修羅』として自費出版する口語詩を書き始めます。同年4月8日の日付が記され、詩集の題名ともなった「春と修羅」は、次のような詩句により始められます。 心象のはいいろはがねから あけびのつるは…

稗貫農学校時代 家出青年が教師に 

大正10(1921)年12月、宮沢賢治は稗貫(ひえぬき)郡立稗貫農学校の教諭となりました。明治40年に開所した蚕業講習所が4月に衣替えしたもので、町の人々や隣の花巻女学校の生徒からは、「桑っこ大学」と呼ばれた小さな学校に、兵役に就いた者の後任として賢…

宮沢賢治 浮世絵と短歌の謎

宮沢賢治はたいへんな浮世絵好きでした。 大正5(1916)年8月17日、彼が20歳の夏、ドイツ語の勉強のため上京した際、親友の保阪嘉内に送った手紙の中に、次の2首の浮世絵に関する短歌があります。 歌まろの 乗合船の 絵の前に なんだあふれぬ 富士くらけれ…

精神主義と日蓮主義 一之江の妙宗大霊廟を訪ねて

宮沢賢治の妹トシは、大正11(1922)年11月27日、24歳で亡くなりました。葬儀は宮沢家の菩提寺であった浄土真宗大谷派の安浄寺で行われましたが、国柱会に入信していた賢治は参列せず、同会の定める方式によって一人で追善したとのことです。翌年1月、賢治は…

宮沢トシのヴァイオリン 「自省録」と二疋の白い鳥

賢治の二歳年下の妹トシが、高等女学校の生徒だった頃に使ったヴァイオリンが、花巻の宮沢賢治記念館に賢治のチェロと並んで展示されていました。日本で最初にヴァイオリンを量産販売した鈴木政吉が、明治40年に製作したものだそうです。 トシと小学校の同級…

大正10年本郷菊坂町 激動の年、そして転機

先日、文京区にある菊坂に言ってきました。大正10(1921)年、25歳の宮沢賢治はこの坂の近くの民家の2階に、約半年間住んでいました。その期間の出来事が、彼の生涯に決定的な転機をもたらしました。菊坂は、本郷3丁目の交差点近くから北西に下り、言問通りに…

童話『ひかりの素足』と「にょらいじゅりょうぼん第十六」

賢治の童話に『ひかりの素足』があります。この童話の中に、賢治親子の宗教をめぐる論争の謎を解くヒントがあると思います。あらすじは次の通りです。 父親と山の中にある炭焼小屋に泊まった一郎と弟の楢夫は、学校があるので父と別れて家に帰ることになりま…

図書館幻想

宮沢賢治の作品に、「図書館幻想」というちょっと不気味な短編があります。図書館の10階でダルゲという名の怪人と会った話です。その図書館の建物は、現在も上野に「国際子ども図書館」として残っており、賢治が生きた頃は国立国会図書館の前身のひとつ「帝…

宮沢賢治の2つの謎とは

宮沢賢治には2つの大きな謎があります。賢治について書かれた本をいろいろ読んだのですが、納得できる説明は得られませんでした。そこで、彼の足跡をたどりながら自分で調べてみることにしました。 2つの謎の概要は次の通りです。 1.「心象スケッチ」の…